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2009年9月1日火曜日

オランダの政党政治制度 その1

 オランダの選挙は、1917年の憲法改正以来、選挙区多数決制を廃して、比例代表制一本で行われてきた。(*奇しくも「教育の自由」を実現した憲法改正と同時)

 日本の衆議院に相当するオランダの「第二院」(150議席)は、全国1区の完全比例代表制で選挙される。ドイツにおける「阻止条項」のような、得票数5%未満の足切りがないので、一票の価値は全国津々浦々まったく等価となる。
 参議院に当たる「第1院」の議員は、州議会選挙で選ばれた衆議院の数に比例して、政党が選出するので、<階段>選挙とも呼ばれる。基になる州議会選挙は、これも州ごとの比例代表制だ。参議院議員は、時勢に流されないためにも、閣僚経験者や党指導部経験者など、経験のある各党のベテラン政治家が選出される場合が多い。

 同様に、地方議会(市町村に相当)選挙も、その地方自治体地区ごとの比例代表制で、ついでながら、この場合、その地方に在留する欧州市民にはオランダ市民と同等の選挙権、また、欧州外諸国の市民の場合は、5年間の継続在留歴があれば、選挙権が与えられる。

 さて、オランダが1917年に廃止した、選挙区ごとに多数決で代表者を選ぶ選挙区多数決制には、民主主義の基本である「有権者の意思をよりよく反映しているか」という点で、たしかに問題がいろいろとある。もっとも、選挙区制の利点は、地方の利害を中央政府で論じられる、つまり、議員と地方とのつながりにあるのは否定できない。そうかんがえると、オランダが、あえて選挙区制を完全にに廃止できたのは、小国の利点であった、という点は否めない。

 だが、基本的に、候補者が一騎打ちをする小選挙区多数決制は、大政党には有利だが、少数派の利害を代表する少数政党が当選の機会を得るのには大変障害が多い。平等意識・機会均等意識の高いヨーロッパでは、こうした選挙区制の持つ問題を補う形で、比例代表制を取り入れているケースが多い。

 そんな中でもオランダの制度は最も典型的で純粋な比例代表制である。それは、オランダの議会に、PVV(自由党)、PvdD(動物愛護党)、GL(グリーン左派党)、SGP(国家プロテスタント党)、D66(民主66党)、CU(キリスト教連合)など、小選挙区制であれば、まず、議席獲得は無理、あるいは、非常に少数にとどまったであろうと思われる政党が、国会での議論に参加できることにも関係している。

 かつて、60年代から70年代にかけて若者や知識人らの指導で市民意識や政治意識が高揚した時には、「農民党」や「高齢者等」など、いわゆるワン・イッシュー政党(広範多岐の分野で政治的立場を示すのではなく、特定の政治問題を取り上げて政治議論を展開する政党)が林立し、また、議員を送った時代があった。それは、ほとんど、市民運動が「政党」の冠をかぶったようなものだった。

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 さて、オランダが1917年に廃止した選挙区多数決制には、どんな問題があったのか。 

 ライデン大学の政治学研究者たちが作っているサイト<政治と議会>は、オランダの政治体制について詳しく記述した、学術的で情報豊富なサイトだ。オランダの選挙制度の歴史的な変遷とともに、選挙区多数決制と比例代表制の長所と問題点が列記されている。今サイトの情報をもとにしながら、オランダの比例代表制、日本の選挙区多数決制の持つ問題点なども挙げつつ、両方の制度の違いを下記にまとめてみたい。

 

1.小政党の場合、たとえ全国的に知名度があって、ある程度の数の支持者がいても、議席獲得の機会が非常に少なくなる。なぜなら、選挙区ごとに少ない数の議席をめぐって争うので、どの選挙区でも、小政党の勢力は小さくなるからだ。日本の衆議院選挙の小選挙区は、全国300区の小選挙区に分かれており、各区に1議席ずつの割り当てだから、このことは特に顕著に表れる。

2.1の問題の結果、小政党に投票する意味がほとんどなくなり、小政党を支持している有権者の無力感が増大し、その結果政治への関心が低くなる。それは、たとえば、今回の日本の衆議院議員選挙でもみられた通りで、協力する政党間で、勝率の高い選挙区を分け合うというような事態が起きた場合には特に問題がはっきりする。投票率を下げる原因でもあろう。また、こうした有権者の関心の低さが、さらに、世襲議員など、コネのある議員の蔓延を引き起こす。

3.その結果、大政党が小政党を支配する、また、多数派が少数派を支配するものであるという状況が起こりやすくなる。議会に多数を占める政党は、立案の際に、同意を得るために妥協をする必要がなくなる。施策の決定は早くなるが、より良い法案のために議論をしてすり合わせるというようなプロセスは少なくなり、そのため、社会内の分極化、連立政権内の亀裂も起こりやすい。

4.選挙区の多数決の結果選ばれた議員たちは、選挙後、急激な変革に取り組む可能性が高くなる。しかも、この変革は、次の選挙で政権が交代すると再び撤回される可能性も大きい。lそのため、常に、政治の軌道が大きく変わり、継続性のある施策が実行しにくい。たとえば、ある政権で、企業の国営化が行われても、次の政権で、元に戻されるというようなことが起こりやすく、社会が安定性を欠く結果となる。

5.選挙区の多数決制は、また、立候補者と有権者の間の利害の癒着を生みやすい。立候補者にとって「自分の」選挙区、「自分の」有権者という感情が起こりやすく、有権者である個人や地元有力者、地場産業などとの結びつきが強くなりやすい。それが、世襲問題を含み、コネや不正の原因ともなる。

6.選挙区の住民数に合わせて、選挙区を平等に分けることは容易ではない。つまり、一票の価値が選挙区によって大きく異なる結果となる。

7.さらに、選挙区の境界線の引き方によって、ある政党の議席獲得確率を比較的容易に操作できる。


などなどと問題は尽きない。これらの問題は、日本の小選挙区制の選挙の問題とほぼ重なっていることが分かる。比例代表制には、こういう問題は起こりにくい。

もっとも、選挙区多数決制が、比例代表制に比べて優れている点も否めない。

1.多数決選挙制の選挙は、選挙後だれが支配するかがすぐに明らかになる。これは、国政選挙の場合、政権樹立が非常に早く決まる、という利点がある。これに対して、比例代表制の場合には、過半数を取る政党が出ることはほとんどなく、連立交渉のために、相当な時間を要することになる。選挙区分けがないので、事前に連立協定が結ばれることは少なく、政権樹立までに、数カ月かかることも珍しくない。ベルギーの最近の例では、1年近い期間、交渉が続いた。その間、前政権が暫定政権を維持することになるが、この期間は新しい法案はできないため、事実上、国会は氷結状態になる。

2.多数決選挙制では、有権者が選んだ、政策が実行される可能性が高い。なぜなら、自分が投票する政党が勝てば、その政党が直接に支配する可能性が大きいからである。比例代表制による連立政権では、各政党のマニフェストがそのまま実行されるというよりも、連立を構成している政党間のすり合わせが必要となり、各党の重点項目をめぐって取引が行われる。

3.1と2に関連しているが、多数決選挙制では、政権をとる政党の数は普通少ない。そのために、議会内のプロセスはより明確となる。

(この項、続く。その2:政党資金について、その3:有権者の政治参加意識を高める仕組み)



2009年8月28日金曜日

パートタイムの方が効率がいいのは当たり前???

 某会社の部局で、局長をしている義妹がこういう。数人の部下を使っている。
「そりゃあ、パートタイムの方がずっと仕事効率がいいのは当たり前よ。パートタイムで働く人は、一週間単位で、今日は会社、明日は家事、と計画的に過ごすわけでしょ。今週の仕事はここまでやっておかなくては、という計画性がすごく高い。それに比べてフルタイムは区切りがないから、いつまでたっても予定の仕事が終わらなかったり、翌週回しにしたりということはよくあることよ」

 彼女自身、学校を卒業して以来、ずっと同じ企業の中で、勤務時間数を調整しながらこれまで務めてきた。子どもが生まれると、ゆりかごを抱えて子どもを連れて出勤し、授乳しながら仕事をした。

 子どもたちが小学生の間は、週に三日、手が離れるにつれて仕事量を増やしたが、決してフルタイムでは仕事をしなかった。局長職に就いてからも、週に四日が続いている。家事に以前ほどには手がかからなくなった今は、週末を過ごすテニスクラブの世話をしたり、隣近所の集まりに積極的に出かけたりと、言うならば非営利活動に精を出している。

 管理職になってもフルタイムで働かないオランダ人は多い。私がよくいく小学校でも、校長が週五日まるまる働いているケースはむしろ少数派だ。たいていは、週4日で、週のうちの一日は家事担当、孫の子守、あるいはセカンドジョブとして若手養成のための研修事業団体を自営業で経営している、などだ。どの学校でも、そういう校長不在を埋める校長代行者がいる。

 残業は慣行としてやりたがらないのがオランダ人だ。
 よほど人手不足の企業ならともかく、本当に残業をやらなくてはならないほどの仕事がある会社は新しい人材を雇うだろう。なぜなら、皆、残業をせずに早く家に帰りたいし、仕事だけで疲れ切ってしまうのはごめんだからだ。

 天気の良い夏の昼過ぎなど、我が家のあるハーグ市の路面電車は、どこも、海浜行きの電車が満員になる。一体全体、こんな働き盛りのいい大人たちがどうしてこんなに時間があるのだろう、と感心するほどだ。多分、週一日の休みの日を利用して、家事をさっさと片付け、日ごろありつけない太陽光線を浴びに海浜に行くのだろう。休むこと、くつろぐことに何の罪悪感も感じないこの人たちには感心する。

 ひょっとすると、、、
 日本人が感じなくてはいけないのは、効率を上げているわけでもなく、はたまた家庭を顧みるでもなく、ただだらだらと仕事場にい続けることへの罪悪感なのではないのか、とさえ感じてしまう。

2009年8月22日土曜日

校長職と学校共同体に危機?

 最近、オランダの小学校を訪ねていると、校長職の人材不足と、それに関連しているのか否か、共同体としての学校の危機を感じることが多い。原因は、この数年、以前に比べて校長職にマネジメント能力が強く求められるようになったこと、そして、それが、校長と教職員チームの間で摩擦を生むケースが増えている。

 オランダでは、数年前、ラムサム(補助金一括支給)政策がとられるようになった。

 もともと、オランダの小学校は、国からの補助が潤沢だ。しかも、その額は、公立・私立の別なく平等に支給される。毎年、10月に登録されている生徒数を報告し、その年に決められる一人当たりの国庫教育補助金が、頭数で支給されるという制度がある。(校舎や施設は、これも、公私立共々、市町村負担だ。)
 以前は、支給額がプールされ、学校は、使途別に申請して受給されていた。しかし、それでは、国(教育文化科学省)の事務管理が煩雑であると、グロバリゼーションの時代、すなわち、新自由主義的傾向の強い時代に、規制緩和という名のもとで、ラムサム政策が導入された。
 その結果、すべての小学校は、一括して受け取った額の中から、教職員への俸給、教材・設備購入、研修費などを、自校の運営管理活動の一環として、自己管理しなくてはならなくなった。毎年、会計監査も受けなくてはならない。

 言うまでもなく、この自由化には、「無駄を省く」という意図があったわけで、学校の校長たちは、カネの使途を自由に決められるようになったことよりも、「煩雑な仕事が増えただけで、使える予算は減っている」という不満の方が多かった。

 実際、ラムサム制度導入に伴い、市町村ごとに国と地方の補助金で運営されていた「教育サポート機関」の民営化が進み、これまでは、定期的・ほぼ自動的に受けられた研修も、学校がそれぞれの意思で選ぶようになった。
 教育監督局による評価方法も変わった。これまでは、教育活動に限定されていた評価が、会計監査と組み合わされることになった。
 4年ごとに更新する学校改善計画書と学校要覧の作成が義務付けられたうえ、ラムサム政策による事務手続きの増加で、すっかり不満だらけになった学校の管理職者たち。結局、監督局と学校の教育者たちとの利害すり合わせの中から、評価方法の簡素化が進んだ。

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 そんな中で、学校のマネジメント能力が問われるようになってきた。

 長く務めた校長が退職して、新任の校長を選ぶ際に、教育者としての高潔さや信念よりも、マネジメント能力を優先する傾向が増えてきた。無論、校長の罷免権は学校自身にある。特に、私立校の理事会や教職員の発言権は、日本に比べるとはるかに大きい。それでも、ラムサム制度とそれにまつわる運営上の改革は、マネジメント能力優先の校長選任を、どの学校にも余儀なくさせてきた。

 比較的若い教員体験者が、自ら手を挙げて、管理職研修を受けて好調になるケースも多い。それならば、同僚の教職員との共同体験もあり問題は比較的少ない。しかし、教員の多くは、子どもの発達には熱心でも、運営には疎い、カネのことは考える余裕がない、という人が多いものだ。そんな中で、企業での経理、人事、総務など、マネジメント経験者が校長職に選ばれるケースが増えてきた。教育哲学より、マネジメントの特異な人材が求められるようになってきた。

 小学校を訪問すると、校長室にこもりっきりでキーボードを叩いている校長によく出会うようになった。視察交渉をしたり、実際に学校を訪れても、視察者に関心はなく、副校長や他の教職員に任せて知らん顔、という校長が多くなった。

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 こういう傾向がもたらす不幸は、特にオールタナティブ系の学校でも深刻だ。

 モンテッソーリ、イエナプラン、ダルトン、フレネ、などのオールタナティブ系の小学校は、オランダでは特に、国がよい待遇をして尊重してきた。70年代にキノコのように増えたこれらの学校は、どこも、その時代に、教育哲学に燃えた熱心な教員たちが、国の政策に働きかけながら、子どもの個性と社会性をはぐくみ、親と協力して、「共同体」としての学校を育ててきた。その影響は、広く、他の一般校にも浸透している。
 だが、それができたのは、教育理念、教育方法の自由に支えられ、学校が、自律性・自由裁量を保障されていたからだ。教育面での自律性、自由裁量性は、今も、形の上ではきちんと保障されている。だからこそ、学校会計・運営の自由までが保障され、ラムサム制度の導入となった、ということもできる。
 しかし、経営の複雑化、運営の煩雑さが、その自由裁量性の中で、全体をオーケストラのように指揮していく校長の、「教育者」としてのリーダーシップよりも、マネージャーとしてのリーダシップを要求するようになってしまった。

 70年代に、熱気のように高揚したオールタナティブ教育運動だが、第1世代の職員たちは、すでに、退職の年齢になっている。退職の年齢になっても彼らは、マネージャーとしての校長職にはつきたがらない場合が多い。そんなカネの計算などまっぴらごめんだ、という人が多いのだ。
 現場の教員たちのほとんどは、すでに、第2世代。第1世代に比べて、「子どもたちの個性を伸ばし、共同体を作るために」という意気に燃えている職員たちは、オールタナティブ系の学校でもすっかり影をひそめるようになってきた。自分たち自身が、個別化・個人化の進んだ時代の産物で、社会変革への熱気などなくても幸せに生きている世代なのだ。

 






2009年6月26日金曜日

パートタイム失業制度延長、ただし、条件を厳しく

 一昨日に社会事象・労働省のドナー大臣が、パートタイム失業制度の資金使用終了による停止発表(http://hollandvannaoko.blogspot.com/2009/06/blog-post_23.html)は、かなりの動揺を呼んだようだ。すぐさま、労使双方から継続の声が聞こえ、ドナー大臣もこれに応じて、小予算からさらに資金をねん出することを決め、早くも、第2院(衆議院)での国会討議が行われた。わずか2日の間の出来事だ。
 この間、労使間交渉にかかわる労働法人の調査が発表され、「パートタイム失業制度がなかったら、完全解雇にせざるを得なかったという会社が多いこと、また、部分雇用であれ、雇用が続けば、所得税の納入が続くので、国庫収入の一部を負担し続けることにもなる」という理由が出され、制度の継続への強い希望が示された。
 
 今回の危機では、製造業、鉄鋼・金属関係やテクノロジー部門の企業が大きな痛手を受けている。中には、売り上げが一気に70%減となった企業もあり、このパートタイム失業制度がなかったら、熟練の専門職者を失う上、到底危機を乗り越えられなかったと言う企業もある。

 国会では、与野党相互から、延長支持の声が圧倒的に強かったようだ。ただし、わずか3カ月余りで資金が底をついてしまった、という事態に対しては批判の声もある。「パートタイム失業制度」を申請する企業に対して、基本的に、健全な経営状態にあることを条件とした、厳しい規則を設けるべきだ、との声だ。こうした議論に基づき、政府は、近日中に、労使とともに、同制度適用の条件を話し合うことになっているという。

 OECDは、経済回復基調が確実になるまで、政府による経済活性のための資金注入はやめるべきではない、という。欧州連合の加盟国は、お互いの足並みをそろえて回復基調に戻っていかなければならない、という事情もある。
 けれども、いまのところ、まだ、安心には程遠いようだ。2010年の失業率は倍になる予定だし、財政赤字は、毎日1億ユーロずつ増えていくという。

 そんな中で、経済学者の中には、不況は、劣悪経営企業の淘汰なのだから、要らぬてこ入れはすべきではない、という意見もなくはない。しかし、全体の傾向を見ているとこういう声は小さく、やはり、オランダの場合は、企業優先というよりも、労働者の保護に非常に厚い国である、と思う。


 

2009年6月24日水曜日

犯罪者の社会復帰

 よく訪ねるイエナプランの小学校に、最近またある視察団とともに訪れた。
 イエナプラン校は、何度も訪ねているのだが、いってみるたびに新しい発見がある。

 いつものように、この日、訪問者とともに職員ホールに通され。若い女の校長先生が、いつものように学校の概要を説明してくれた。そして、それから、彼女は、ちょっとほほ笑んで私の方に目配せをし、
「それから、今日は、実を言うと、今、学校に特別のゲストを迎えているんです。もうすぐ卒業して中学校に進学する最上級生のこどもたちが今そのゲストを囲んでサークルで話し合いをしています。そのゲストというのは、実は、刑事犯罪を犯した前科のある人で、TBSクリニックから社会復帰訓練で出てきている人なんです。ちょうど、今子どもたちはワールドオリエンテーションで全校一緒に『法律』をテーマに学んでいるところなので、いつものようにホンモノの勉強をするために、こうしてゲストとして招いて、子どもたちと話をしてもらっているんです。」

 TBSクリニックにいる患者というのは、相当の凶悪犯罪者のはずだ。刑の比較的軽いオランダでも、少なくとも四年間の留置刑が科された犯罪に対して、犯罪を犯した時期に、精神的に異常であったことが証明され、そのために、服役能力がないと考えられると裁判官が認める人が収容される。
 回復の見込みがない精神異常である場合も多く、収容される患者のおよそ六割以上は治療を受けながら一生クリニックで過ごすらしい。クリニックとはいっても、厚生省下の施設ではなく、法務省管轄下にあって、法務省予算で賄われている施設だ。全国に現在10か所ある。

 TBSクリニックに収容されている犯罪を犯した患者たちは、薬剤投下によって精神異常が抑制され、二年ごとに回復状態を審査される。基本的には、再犯の危険がなくなっているかどうかの審査だ。

 回復が順調に進み、普通に過ごせすようになると、はじめはクリニック周辺を歩くことから始め、徐々に社会復帰の訓練が行われる。犯罪者の社会復帰には、社会も責任を持つもの、という考えがあるのだという。

 ただ、不運なことに、これまで、社会復帰訓練中の患者が、付添い人の見ていない間に逃亡して再犯が起きたことも何回かある。全数に対する比率は少ないものの、当然、社会は敏感に反応するし、厳重な監督が必要にもなる。

 それでも、厳しい監督下で動くだけであれば、復帰訓練にはならない。そこで、最近は、足首にデータをチップで埋め込んだ輪のようなものをつけて、行動や居場所がすぐにわかるようにしているらしい。

 さて、この日、イエナプラン小学校に来ていた、というのは、そういう、凶悪犯罪を犯した精神異常の患者だった。ホールに二〇人ばかりの子どもたちと一緒に、輪になって座り、子どもたちの質問を受けていた。隣には、とても力持ちとは思えない、優しそうな女性が、付き添いで同行してきていた。その様子を、校長先生もほかの先生も監視しているわけではない。いつものように、それぞれのしごとをやっているだけだ。他のクラスの子どもも、いつものように、自分の授業計画に従って、自由に学校の中を動き回っている。
 一〇数人の日本からの訪問者を同行していた私も、取り立てて、じろじろ見たり、近くに行ってみるのもどうかと思い、話をしている子どもたちのそばを通り過ぎる時にちらっと様子を見ただけだった。

 しかし、後になって思い返してみても、どう考えてみても、あれは、ものすごいことだった、と思えるのだ。いったい、日本のどんな学校が、こうして、凶悪犯罪を犯した精神患者の社会復帰中に、学校に呼んで、子どもたちと間近に触れさせて話をさせたりするだろう?

 無論、こういう学校は、オランダでも例外的なのだろう、と思う。それにしてもだ、この学校に子供を通わせている親たちは、こういうことがあっても苦情を言わないらしい。それが証拠に、これは、今回が初めてではない、という。
 オランダには、犯罪者の社会復帰を助けるためのNPO団体があって、こういうTBSクリニックの復帰訓練中の患者や、前科のある元犯罪者の中から希望者を登録して、学校の授業の中で、子どもたちと交流させる活動をしている団体があるという。

 罪は憎んでも人は憎まず、ということを、建前ではなく本音で子どもたちに教えようとしている人たちがいるということだ。

 オランダという国は、つくづく、市民社会の究極の目標はなんなのか、人はどういう方向を向かっていれば市民社会の理想に近づけるのか、を思い出させてくれる国だ。

2009年6月23日火曜日

パートタイム失業制度の効果とオランダ経済の見通し

 前々回4月22日に報告した「パートタイム失業制度」の効果についての報告が出た。
 
 「パートタイム失業制度」は、金融危機による不況下の失業対策として4月1日から施行されているもの。被雇用者の完全失業を回避し、経済回復後に熟練労働者を早く動員できるための策で、雇用者は、現在雇用している社員の就業時間を最大6ヵ月間、最大50%減らして、この間、給与の支給を半分にし、その失業部分については、国が、通常の失業手当と同じように70%の手当を支給する、というものだ。つまり、労働者側は、この制度によって、完全失業を避けることができ、給与減も最大15%で済む。

 この「パートタイム失業制度」は、非常に人気があったらしい。
 この18日に中央統計局(CBS)が出した報告によると、5月の失業者数は8000人にとどまり、4月の2万人に比べて上昇率がぐっと抑制された。この失業抑制は、明らかに、「パートタイム失業制度」の適用の効果であるという。現在、この制度の施行から3カ月目になるが、適用ケースは1万人以上あるという。

 その前々日16日に発表された経済分析局(CPB)の予測では、2010年の予算赤字は6.7%と記録的な大きさになり、また、失業は現在の4.6%を倍増して73万人、9.5%に膨らむ見込みだという。この計算だと、今後、月当たり2万5千人ずつのテンポで失業が進むということであるから、5月の8000人は、確かに非常に少ない。
 
 労働組合側にも、企業側にも歓迎されたこの制度だが、政府の資金がそろそろ底をついてきているらしい。今年の国際通商は15%以上減少の見込みで、オランダの輸出は17.25%減、輸入は14%減とのこと。最も大きな打撃は、すでに過去のものと見られているが、国家経済がフォワーディング業を始め商取引に経済基盤を持つオランダでは、諸外国の経済回復の見通しが立たなければ、自国の経済の見通しも立ちにくい。
 CPBの発表後、財務大臣は、長期の不況に備えた対策が必要であるとしている。

 現に、今朝の報道では、「パートタイム失業制度」の担当省である社会事象・労働省のドナー大臣は、この制度のために準備されていた3億7500万ユーロの追加資金はすでに使い果たされた、と発表。この制度適用は、今日23日付の申請までしか受け付けられないと決まった。
 労働組合や企業側には、制度無期限延長の強い要望があり、そのための資金をどうすべきかが来週国会で討議される予定だ。
 被雇用者の失業よりも、個人自営業主の収入減が激しいとの報告もある。

 言うまでもなく、この制度がここで中断となれば、次に来るのは、完全失業者の増大だ。そうなれば、政府の失業手当負担も増える。また、夏以降は、新卒者の就職難による失業者急増も予測されている。


 何らかの手が打たれることになろうとは予想されるが、国庫赤字が先に見えている状態では、資金捻出が困難を極めることであろう。経済不況をどう乗り切るか、いよいよ正念場となってきたようだ。

 

2009年6月5日金曜日

移民排斥派と親ヨーロッパ派の分極明確:EU議会選挙

 昨日5日、27カ国の先頭を切って、オランダとイギリスで、ヨーロッパ議会選挙が行われた。2004年以来5年ぶりの選挙の結果を、5億人弱の住民がいて3億7千500万人の投票が予想されるヨーロッパと世界のひとびとが見守っている。

 オランダでの選挙は、736議席中25議席の分配をめぐって行われる。即日開票されたオランダでの選挙結果は、第1党は、キリスト教民主連盟(CDA)で、以前と変わりはなかったものの、得票数は減り、現在の7議席から5議席へと後退した。最も注目されたのは、へールト・ウィルダーズ率いる自由党(PVV)だ。この政党は、もともと自由民主党(VVD)にいたウィルダーズ氏が、独立して作った政党だ。2007年の第2院(衆議院)選挙では、150議席の中でいきなり9議席を獲得。この時も衆目を引いたが、今回は、それにも増す電撃的なショックを国内に広げている。
 というのも、このPVVは、非常に国粋性の高い政党だからだ。ヨーロッパ連合に関しては最も懐疑的、特に、イスラム教徒の国内流入に対して、最も排斥的な立場を示してはばからない。
 ウィルダーズ自身、反イスラムの挑発的な映画を作り、コーランを禁書とすべきだというなど、ボディガードなしでは路上を歩くことができないほど、激しい排斥を繰り返している。
 ヨーロッパには、特に、移民人口の多い国ほど、こういう、反イスラム感情が現在高まっている。
 そんな中で、ウィルダーズも、他国の、反イスラム勢力には、ひそかな支援があるようだ。だが、国会で自作の反イスラム映画を見せるという目的でイギリスに飛んだ時、イギリス政府は、空港で入国を拒否して、一幕を醸したことがあった。ヨーロッパ連合内では、現在、一般市民の国境通過にはほとんど検査がない。それなのに、国会議員でもあるウィルダーズが、イギリス政府から正式に入獄拒否を受けた時には、オランダでも、少々の議論が展開された。

 いずれにしても、そういう、極めて「国粋主義的な」PVVが、今回のヨーロッパ議会選挙で、なんと、4議席、得票数にして、全体の16.9%(開票率92.2%現在)を占めたのだから、驚かないわけにはいかない。

 CNNはじめ、諸外国のニュースでも、「国粋派極右PVVの勝利」と報じられた。

 他方、現政権を構成しているキリスト教民主連盟(CDA)、労働党(PvdA)、キリスト教連合(CU)は、得票率が極めて低かった。特にCDAは2議席、PvdAは7議席から4議席失って、半分以下の3議席だ。金融危機の先行きが見えない現在、政権として明らかな経済施策が打ち出せない状態が、支持者を失っている原因なのかもしれない。

 もっとも、PVVのような、国粋主義・ヨーロッパ連合懐疑派の躍進の反面、民主66党(D66)、グリーン左派党(GL)、社会党(SP)など、中道から左よりの親ヨーロッパ派の革新的な政党も票を伸ばしている。これらの政党の得票を合わせれば、8議席で、PVVの4議席に対しては倍の得票だ。
 金融危機で、人々が、自分の身の回りの安定を求める傾向が予想される中、親ヨーロッパの革新政党が、5年前よりも躍進したことについては、彼らの間で、満足の声が聞かれている。

 早い話が、どうやら、今回のオランダの選挙から結論できるのは、オランダ社会が、極右と革新の両方に分極してきているらしい、ということだ。ニュアンスを含んだ中道的な議論をした現政権内の与党各党が、いずれも票を下げたことからもこれは明らかだ。特にハーグやロッテルダムなどの都市部で、両方の支持が強いのが気になる。


 もっとも、投票率が極めて低いことは注意しておくべきだ。今回の投票率は、36.5%で、前回の39%をさらに下回る。もともと、ヨーロッパ議会選挙は、一般に、国内選挙に比べると関心が低い。5年前のヨーロッパ議会選挙の、域内全体の投票率は44%にとどまったことでもそれは明らかだ。オランダの場合、第2院(衆議院)選挙の投票率は、毎回80%に達するので、これと比べてみても、オランダの人々のヨーロッパに対する関心が低いことが知られる。

 ヨーロッパ連合はもともと、各国の民主体制の維持の上に成り立ったものだ。地方分権が前提といってもいい。だから、ヨーロッパへの関心が低いことは致し方ない面はある。
 しかし、オバマが国際協調に乗り出し、また、金融危機対策においても経済ブロックとして足並みをそろえた動きをすることが望まれている現在、ヨーロッパ連合に対する関心の低さを危ぶむエリート層の声は強い。もともと、ヨーロッパ連合は「エリートたちの理想主義だ」という感覚でとらえられている面も少なくない。

 そういうわけなので、今回のヨーロッパ議会選挙の結果が、果たして、国内政治の議論に対して、どれほど有効性を持っているかについては、疑問が多い。にもかかわらず、ヘールト・ウィルダーズは、「今回の選挙結果は、国内の人々が、現(オランダ)政権に不満を持っていることのあかしだ」と鼻息が荒い。無論、与党各党、また、親ヨーロッパの革新各党も、国内政治の議題とヨーロッパ議会の議題とでは、問題の質が違う、と取り合わないが、、、。
(ウィルダーズの言質言動を見ていると、ユーモアがほとんどなく、討論相手の話を聞いている様子も見られない。どうして、極右はというのは、こうもユーモアのない連中なのだろう。)

 問題は、そもそも、ヨーロッパ懐疑派のPVVがどこまでヨーロッパに影響を与えられるか、だ。
 なにしろヨーロッパ議会には、736議席もの議席がある。既存政党は、したがって、ヨーロッパレベルでは、各国の政党が集まって、ヨーロッパの政党を構成して協働することになっている。(そのため、オランダのキリスト教民主連盟は、労働党と連立するほど、かなり中道性、左翼との歩み寄りの性格が高いにもかかわらず、ヨーロッパ議会では、イタリアのベルロスコー二率いるかなり右翼性の高い政党と協働することが、支持者を躊躇させる原因にもなっていたとの見方もある。)
 当然、27カ国の代表者と協働しなければ、ヨーロッパ議会での議論には決着がつかないのが当然だ。

 しかし、PVVは、反ヨーロッパ主義の政党として、独立無所属の議員として参加するという。果たして、736議席もの中で、わずか4議席の代表が、全体の動きに対してどれほどの影響を与えられるかは疑問視される。

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 さて、選挙は、これから、今週末にかけて、27カ国すべてで実施されるが、興味深いのは、イギリスがまだ開票結果を報告していないことだ。ヨーロッパ連合の姿勢としては、最終開票日まで、結果を報告しないことを望ましい、としているらしい。先に行われた選挙結果が、他国での選挙に影響を与えないため、という。イギリスは、この姿勢を受け、日曜日まで、開票結果報告をしない。
 しかし、何事も「オープン性」を優先するオランダだ。事実は事実としてありのままに、という精神か、昨日の選挙は、投票時間終了とともに、すぐに、即時速報が開始された。
 こういうあたり、各国の政治姿勢にも、ヨーロッパ連合の面白さはある。

 今日は、アイルランドとチェコで投票が行われる。
 日曜日夜には、27カ国の開票速報が始まることだろう。

 金融危機の中で、果たして、ヨーロッパの人々は、どんな意思表示をするのか、、、
 PVVのような、国粋主義的なヨーロッパ懐疑派の動きは各国に存在する。特に、フランス、ドイツ、デンマークなど、これまで、移民労働者の受け入れにどちらかというと寛容だった国で、その反動が見え始め、社会不安が高まっている。高齢化社会に加えて、経済危機が、低所得者層を追い詰め、移民排斥に向かわせている。
 しかし、同時に、国際協調の時代、しかも、オバマ大統領は、昨日カイロで、イスラム教徒との友好関係を表明したばかりだ。そちらの支持に票が動く可能性も非常に高い。