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2009年6月5日金曜日

移民排斥派と親ヨーロッパ派の分極明確:EU議会選挙

 昨日5日、27カ国の先頭を切って、オランダとイギリスで、ヨーロッパ議会選挙が行われた。2004年以来5年ぶりの選挙の結果を、5億人弱の住民がいて3億7千500万人の投票が予想されるヨーロッパと世界のひとびとが見守っている。

 オランダでの選挙は、736議席中25議席の分配をめぐって行われる。即日開票されたオランダでの選挙結果は、第1党は、キリスト教民主連盟(CDA)で、以前と変わりはなかったものの、得票数は減り、現在の7議席から5議席へと後退した。最も注目されたのは、へールト・ウィルダーズ率いる自由党(PVV)だ。この政党は、もともと自由民主党(VVD)にいたウィルダーズ氏が、独立して作った政党だ。2007年の第2院(衆議院)選挙では、150議席の中でいきなり9議席を獲得。この時も衆目を引いたが、今回は、それにも増す電撃的なショックを国内に広げている。
 というのも、このPVVは、非常に国粋性の高い政党だからだ。ヨーロッパ連合に関しては最も懐疑的、特に、イスラム教徒の国内流入に対して、最も排斥的な立場を示してはばからない。
 ウィルダーズ自身、反イスラムの挑発的な映画を作り、コーランを禁書とすべきだというなど、ボディガードなしでは路上を歩くことができないほど、激しい排斥を繰り返している。
 ヨーロッパには、特に、移民人口の多い国ほど、こういう、反イスラム感情が現在高まっている。
 そんな中で、ウィルダーズも、他国の、反イスラム勢力には、ひそかな支援があるようだ。だが、国会で自作の反イスラム映画を見せるという目的でイギリスに飛んだ時、イギリス政府は、空港で入国を拒否して、一幕を醸したことがあった。ヨーロッパ連合内では、現在、一般市民の国境通過にはほとんど検査がない。それなのに、国会議員でもあるウィルダーズが、イギリス政府から正式に入獄拒否を受けた時には、オランダでも、少々の議論が展開された。

 いずれにしても、そういう、極めて「国粋主義的な」PVVが、今回のヨーロッパ議会選挙で、なんと、4議席、得票数にして、全体の16.9%(開票率92.2%現在)を占めたのだから、驚かないわけにはいかない。

 CNNはじめ、諸外国のニュースでも、「国粋派極右PVVの勝利」と報じられた。

 他方、現政権を構成しているキリスト教民主連盟(CDA)、労働党(PvdA)、キリスト教連合(CU)は、得票率が極めて低かった。特にCDAは2議席、PvdAは7議席から4議席失って、半分以下の3議席だ。金融危機の先行きが見えない現在、政権として明らかな経済施策が打ち出せない状態が、支持者を失っている原因なのかもしれない。

 もっとも、PVVのような、国粋主義・ヨーロッパ連合懐疑派の躍進の反面、民主66党(D66)、グリーン左派党(GL)、社会党(SP)など、中道から左よりの親ヨーロッパ派の革新的な政党も票を伸ばしている。これらの政党の得票を合わせれば、8議席で、PVVの4議席に対しては倍の得票だ。
 金融危機で、人々が、自分の身の回りの安定を求める傾向が予想される中、親ヨーロッパの革新政党が、5年前よりも躍進したことについては、彼らの間で、満足の声が聞かれている。

 早い話が、どうやら、今回のオランダの選挙から結論できるのは、オランダ社会が、極右と革新の両方に分極してきているらしい、ということだ。ニュアンスを含んだ中道的な議論をした現政権内の与党各党が、いずれも票を下げたことからもこれは明らかだ。特にハーグやロッテルダムなどの都市部で、両方の支持が強いのが気になる。


 もっとも、投票率が極めて低いことは注意しておくべきだ。今回の投票率は、36.5%で、前回の39%をさらに下回る。もともと、ヨーロッパ議会選挙は、一般に、国内選挙に比べると関心が低い。5年前のヨーロッパ議会選挙の、域内全体の投票率は44%にとどまったことでもそれは明らかだ。オランダの場合、第2院(衆議院)選挙の投票率は、毎回80%に達するので、これと比べてみても、オランダの人々のヨーロッパに対する関心が低いことが知られる。

 ヨーロッパ連合はもともと、各国の民主体制の維持の上に成り立ったものだ。地方分権が前提といってもいい。だから、ヨーロッパへの関心が低いことは致し方ない面はある。
 しかし、オバマが国際協調に乗り出し、また、金融危機対策においても経済ブロックとして足並みをそろえた動きをすることが望まれている現在、ヨーロッパ連合に対する関心の低さを危ぶむエリート層の声は強い。もともと、ヨーロッパ連合は「エリートたちの理想主義だ」という感覚でとらえられている面も少なくない。

 そういうわけなので、今回のヨーロッパ議会選挙の結果が、果たして、国内政治の議論に対して、どれほど有効性を持っているかについては、疑問が多い。にもかかわらず、ヘールト・ウィルダーズは、「今回の選挙結果は、国内の人々が、現(オランダ)政権に不満を持っていることのあかしだ」と鼻息が荒い。無論、与党各党、また、親ヨーロッパの革新各党も、国内政治の議題とヨーロッパ議会の議題とでは、問題の質が違う、と取り合わないが、、、。
(ウィルダーズの言質言動を見ていると、ユーモアがほとんどなく、討論相手の話を聞いている様子も見られない。どうして、極右はというのは、こうもユーモアのない連中なのだろう。)

 問題は、そもそも、ヨーロッパ懐疑派のPVVがどこまでヨーロッパに影響を与えられるか、だ。
 なにしろヨーロッパ議会には、736議席もの議席がある。既存政党は、したがって、ヨーロッパレベルでは、各国の政党が集まって、ヨーロッパの政党を構成して協働することになっている。(そのため、オランダのキリスト教民主連盟は、労働党と連立するほど、かなり中道性、左翼との歩み寄りの性格が高いにもかかわらず、ヨーロッパ議会では、イタリアのベルロスコー二率いるかなり右翼性の高い政党と協働することが、支持者を躊躇させる原因にもなっていたとの見方もある。)
 当然、27カ国の代表者と協働しなければ、ヨーロッパ議会での議論には決着がつかないのが当然だ。

 しかし、PVVは、反ヨーロッパ主義の政党として、独立無所属の議員として参加するという。果たして、736議席もの中で、わずか4議席の代表が、全体の動きに対してどれほどの影響を与えられるかは疑問視される。

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 さて、選挙は、これから、今週末にかけて、27カ国すべてで実施されるが、興味深いのは、イギリスがまだ開票結果を報告していないことだ。ヨーロッパ連合の姿勢としては、最終開票日まで、結果を報告しないことを望ましい、としているらしい。先に行われた選挙結果が、他国での選挙に影響を与えないため、という。イギリスは、この姿勢を受け、日曜日まで、開票結果報告をしない。
 しかし、何事も「オープン性」を優先するオランダだ。事実は事実としてありのままに、という精神か、昨日の選挙は、投票時間終了とともに、すぐに、即時速報が開始された。
 こういうあたり、各国の政治姿勢にも、ヨーロッパ連合の面白さはある。

 今日は、アイルランドとチェコで投票が行われる。
 日曜日夜には、27カ国の開票速報が始まることだろう。

 金融危機の中で、果たして、ヨーロッパの人々は、どんな意思表示をするのか、、、
 PVVのような、国粋主義的なヨーロッパ懐疑派の動きは各国に存在する。特に、フランス、ドイツ、デンマークなど、これまで、移民労働者の受け入れにどちらかというと寛容だった国で、その反動が見え始め、社会不安が高まっている。高齢化社会に加えて、経済危機が、低所得者層を追い詰め、移民排斥に向かわせている。
 しかし、同時に、国際協調の時代、しかも、オバマ大統領は、昨日カイロで、イスラム教徒との友好関係を表明したばかりだ。そちらの支持に票が動く可能性も非常に高い。

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