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2009年9月1日火曜日

オランダの政党政治制度 その1

 オランダの選挙は、1917年の憲法改正以来、選挙区多数決制を廃して、比例代表制一本で行われてきた。(*奇しくも「教育の自由」を実現した憲法改正と同時)

 日本の衆議院に相当するオランダの「第二院」(150議席)は、全国1区の完全比例代表制で選挙される。ドイツにおける「阻止条項」のような、得票数5%未満の足切りがないので、一票の価値は全国津々浦々まったく等価となる。
 参議院に当たる「第1院」の議員は、州議会選挙で選ばれた衆議院の数に比例して、政党が選出するので、<階段>選挙とも呼ばれる。基になる州議会選挙は、これも州ごとの比例代表制だ。参議院議員は、時勢に流されないためにも、閣僚経験者や党指導部経験者など、経験のある各党のベテラン政治家が選出される場合が多い。

 同様に、地方議会(市町村に相当)選挙も、その地方自治体地区ごとの比例代表制で、ついでながら、この場合、その地方に在留する欧州市民にはオランダ市民と同等の選挙権、また、欧州外諸国の市民の場合は、5年間の継続在留歴があれば、選挙権が与えられる。

 さて、オランダが1917年に廃止した、選挙区ごとに多数決で代表者を選ぶ選挙区多数決制には、民主主義の基本である「有権者の意思をよりよく反映しているか」という点で、たしかに問題がいろいろとある。もっとも、選挙区制の利点は、地方の利害を中央政府で論じられる、つまり、議員と地方とのつながりにあるのは否定できない。そうかんがえると、オランダが、あえて選挙区制を完全にに廃止できたのは、小国の利点であった、という点は否めない。

 だが、基本的に、候補者が一騎打ちをする小選挙区多数決制は、大政党には有利だが、少数派の利害を代表する少数政党が当選の機会を得るのには大変障害が多い。平等意識・機会均等意識の高いヨーロッパでは、こうした選挙区制の持つ問題を補う形で、比例代表制を取り入れているケースが多い。

 そんな中でもオランダの制度は最も典型的で純粋な比例代表制である。それは、オランダの議会に、PVV(自由党)、PvdD(動物愛護党)、GL(グリーン左派党)、SGP(国家プロテスタント党)、D66(民主66党)、CU(キリスト教連合)など、小選挙区制であれば、まず、議席獲得は無理、あるいは、非常に少数にとどまったであろうと思われる政党が、国会での議論に参加できることにも関係している。

 かつて、60年代から70年代にかけて若者や知識人らの指導で市民意識や政治意識が高揚した時には、「農民党」や「高齢者等」など、いわゆるワン・イッシュー政党(広範多岐の分野で政治的立場を示すのではなく、特定の政治問題を取り上げて政治議論を展開する政党)が林立し、また、議員を送った時代があった。それは、ほとんど、市民運動が「政党」の冠をかぶったようなものだった。

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 さて、オランダが1917年に廃止した選挙区多数決制には、どんな問題があったのか。 

 ライデン大学の政治学研究者たちが作っているサイト<政治と議会>は、オランダの政治体制について詳しく記述した、学術的で情報豊富なサイトだ。オランダの選挙制度の歴史的な変遷とともに、選挙区多数決制と比例代表制の長所と問題点が列記されている。今サイトの情報をもとにしながら、オランダの比例代表制、日本の選挙区多数決制の持つ問題点なども挙げつつ、両方の制度の違いを下記にまとめてみたい。

 

1.小政党の場合、たとえ全国的に知名度があって、ある程度の数の支持者がいても、議席獲得の機会が非常に少なくなる。なぜなら、選挙区ごとに少ない数の議席をめぐって争うので、どの選挙区でも、小政党の勢力は小さくなるからだ。日本の衆議院選挙の小選挙区は、全国300区の小選挙区に分かれており、各区に1議席ずつの割り当てだから、このことは特に顕著に表れる。

2.1の問題の結果、小政党に投票する意味がほとんどなくなり、小政党を支持している有権者の無力感が増大し、その結果政治への関心が低くなる。それは、たとえば、今回の日本の衆議院議員選挙でもみられた通りで、協力する政党間で、勝率の高い選挙区を分け合うというような事態が起きた場合には特に問題がはっきりする。投票率を下げる原因でもあろう。また、こうした有権者の関心の低さが、さらに、世襲議員など、コネのある議員の蔓延を引き起こす。

3.その結果、大政党が小政党を支配する、また、多数派が少数派を支配するものであるという状況が起こりやすくなる。議会に多数を占める政党は、立案の際に、同意を得るために妥協をする必要がなくなる。施策の決定は早くなるが、より良い法案のために議論をしてすり合わせるというようなプロセスは少なくなり、そのため、社会内の分極化、連立政権内の亀裂も起こりやすい。

4.選挙区の多数決の結果選ばれた議員たちは、選挙後、急激な変革に取り組む可能性が高くなる。しかも、この変革は、次の選挙で政権が交代すると再び撤回される可能性も大きい。lそのため、常に、政治の軌道が大きく変わり、継続性のある施策が実行しにくい。たとえば、ある政権で、企業の国営化が行われても、次の政権で、元に戻されるというようなことが起こりやすく、社会が安定性を欠く結果となる。

5.選挙区の多数決制は、また、立候補者と有権者の間の利害の癒着を生みやすい。立候補者にとって「自分の」選挙区、「自分の」有権者という感情が起こりやすく、有権者である個人や地元有力者、地場産業などとの結びつきが強くなりやすい。それが、世襲問題を含み、コネや不正の原因ともなる。

6.選挙区の住民数に合わせて、選挙区を平等に分けることは容易ではない。つまり、一票の価値が選挙区によって大きく異なる結果となる。

7.さらに、選挙区の境界線の引き方によって、ある政党の議席獲得確率を比較的容易に操作できる。


などなどと問題は尽きない。これらの問題は、日本の小選挙区制の選挙の問題とほぼ重なっていることが分かる。比例代表制には、こういう問題は起こりにくい。

もっとも、選挙区多数決制が、比例代表制に比べて優れている点も否めない。

1.多数決選挙制の選挙は、選挙後だれが支配するかがすぐに明らかになる。これは、国政選挙の場合、政権樹立が非常に早く決まる、という利点がある。これに対して、比例代表制の場合には、過半数を取る政党が出ることはほとんどなく、連立交渉のために、相当な時間を要することになる。選挙区分けがないので、事前に連立協定が結ばれることは少なく、政権樹立までに、数カ月かかることも珍しくない。ベルギーの最近の例では、1年近い期間、交渉が続いた。その間、前政権が暫定政権を維持することになるが、この期間は新しい法案はできないため、事実上、国会は氷結状態になる。

2.多数決選挙制では、有権者が選んだ、政策が実行される可能性が高い。なぜなら、自分が投票する政党が勝てば、その政党が直接に支配する可能性が大きいからである。比例代表制による連立政権では、各政党のマニフェストがそのまま実行されるというよりも、連立を構成している政党間のすり合わせが必要となり、各党の重点項目をめぐって取引が行われる。

3.1と2に関連しているが、多数決選挙制では、政権をとる政党の数は普通少ない。そのために、議会内のプロセスはより明確となる。

(この項、続く。その2:政党資金について、その3:有権者の政治参加意識を高める仕組み)



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