「教育先進国リポートDVD オランダ入門編」発売

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2008年12月9日火曜日

大学教育の自由と質の維持

 オランダの小中学校は、「教育の自由」のために、公私立すべて国から平等の教育補助金を受け、しかも、学校ごとに、独自の理念と方法で教育活動を展開している、ということは、これまでに、「通信」のエッセイでも、また、刊行された単行本の中でも繰り返し書いてきました。

 ところで、オランダでは大学でも当然ながらこの「教育の自由」があり、したがって、国内の大学は、それぞれ、独自の理念や方法に基づいて教育プランを立てています。まあ、それは、日本の大学でもこれまでそうだったし、法人化され自由化されたことによって、日本の大学は、さらに、独自の特徴を出していかなくてはならないくなってきていると思います。
 
 ただ、問題は「教育の自由」を認めた場合の質の維持をどうするかです。
 これは、小中高校の場合には、オランダでは、「教育監督法」に明確にあらわされた基準があり、それに基づいて「教育監督局」が文書と定期的な訪問によって評価をし、問題がある場合には、すぐに、地域の教育サポート機関から支援を受けることができる仕組みになっています。

 大学は、ただし、なかなか、そういうわけにはいきません。学問の自由が保障されていますし、教授たちの権限が大きいことは日本ともある程度似ているかもしれません。
 そこで、大学の質の維持に最も大きい影響を与えるのは、言うまでもないことですが、大学生自身による評価です。毎年ランキングが出されます。ランキングには、大学に勤務する研究者自身の評価に基づいたものもあります。また、論文数などによって研究内容のレベルを示すものもあります。しかし、非常に大きいのは、やはり、受益者である大学生自身の評価、行動ではないか、と思います。

 何しろ、入試のない国です。大学のほうが「えらそうな顔」をして、「入りたいならこの試験に通ってみろ」と学生を学力で選抜する仕組みは、オランダでは、日本ほどに強烈ではありません。
 進路に従ってしかるべき高校の卒業資格を取れば、学生は、全国の大学の中から、自分が好きな大学を選んで入れるのです。選ばれるのは学生ではなく、大学のほうです。

 また、オランダの大学は、日本よりもずっと早く自由化されており、学生数や、卒業資格取得者数によって国からの補助金の額が変わります。ですから、学生が選んでくれなくなり、学生数が減ってしまうと、とたんに学部や学科を閉鎖したり、教授らのスタッフの数を減らさなくてはならなくなります。そういう仕組みが、大学に、より良い質の教育を提供するように働きかけるのです。

 しかも、もっと大事なことは、ヨーロッパ域内で、すでに単位互換制度が始まっていることです。それだけでなく、学生たちは、自国の奨学金をそのままヨーロッパ域内の他国の大学に行っても受給できるのです。(ただし、その場合、学生の奨学金は母国から受給されますが、その学生が通う大学へ直接支払われる教育補助金は、その大学が払います。)

 ということは、学生たちは、自国の大学に飽き足らなかったら、他国でもヨーロッパ域内で認可された大学卒業資格をとれるということなのです。大学市場は国境を越えて開放されてきています。
 ですからなおのこと、大学は、よその国に自国の学生を取られてしまわないように、質の高い教育を提供しなくてはなりません。逆にいえば、より良い質の教育を提供している大学は、外国からの学生を受け入れて、そうすることで研究資金的にも豊かになれる、ということなのです。

 こうしたことは、学生にとって利点です。

 ただし、ここまで大学市場が解放されると、時流に合った人気の学部だけが残ってしまい、人気がなくても長い伝統をもつ学問、細々とでも研究者が研究をし続けることに長期的な意味で重要性のある学問がおろそかになる可能性は大いにあることは、言うまでもありません。

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