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2009年2月1日日曜日

ローマ法王によるホロコースト否定の英国人司教破門撤回に対するオランダの反響

 ローマ法王べネディクトゥス16世は、1月24日、1988年にカトリック教会から破門されていた4人の司教の破門を撤回した旨を発表しました。その中の一人、英国人司教リチャード・ウィリアムソンが、スウェーデンのテレビで、第2次世界大戦中のナチスによるユダヤ人大虐殺を否定する発言をしていたため、欧州一円、ユダヤ人問題や人権問題をめぐって、破門を撤回したローマ法王を批判する声が強まっています。

 オランダは、戦時中、多くのユダヤ人が強制収容所に連行されたことで有名。今でも、ユダヤ人たちは、人権問題に積極的に声をあげますし、彼らの声が、この国の戦後の人権議論を率いてきた、といっても過言ではないと思います。同時に、それは、戦争中、10万人にも及ぶユダヤ人被害者を生んだオランダという国の恥の意識のもつながっており、ユダヤ人たちだけではなく、オランダ人の国民的態度として、「人権問題」は敏感に態度を明らかにするもの、という意識もあります。

 ローマ法王から破門を撤回されたリチャード・ウィリアムソンという司教は、
「私はガス室はなかったと信じている、、、20万人から30万人ほどのユダヤ人がナチスの強制収容所でなくなったとは思っているが、、、そのうちのだれ一人としてガス室でなくなったものはいない」
と発言しているのです。

 ホロコーストでは、およそ600万人のユダヤ人が殺害されたというのが定説です。最もよく知られたアウシュビッツの強制収容所だけでも、130万人のユダヤ人が、それも大半はガス室で殺害されているのです。そうした事実を証明するさまざまのデータは、戦後、生き延びたユダヤ人たちが、何年もの年月をかけ、調査し、集めてきています。

 しかも、この発言は、もともとドイツで収録されていた録画にあったもので、そういう発言をドイツで行っていたこと、また、それをスウェーデンのテレビが放映したことなどについても、さまざまの抗議が起こっています。

 オランダでは、29日、野党社会党(SP)と与党キリスト教連合(CU)が、フェルハーヘン外相に対して、ヴァチカン市国の大使を召還して、この、ウィリアムソン司教の破門撤回について事情説明を要求すべき、という立場を示しました。

 キリスト教連合とともに与党を構成している「キリスト教民主連盟(CDA)」と「労働党(PvdA)」は、これに対し、この1件で外務大臣が何らかの関与をすることには賛成していませんが、CDAは、オランダ司教会議が、ウィリアムソンを否定する態度をとっていることで十分とし、PvdAは、司教の破門撤回については驚きの態度をとるものの、教会内部の問題に対して、オランダが政府として関与すべき事態ではないとの態度をとっています。

 そんな中で30日、ネイメーヘンのラッドバウト大学のカトリック神学部に籍を置く倫理学者ジャン・ピエール・ウィルス教授が、カトリック教会から縁を切り、カトリック神学部の教授活動を停止すると書状で宣言するというニュースが伝わりました。

「わたしは、もうこれ以上、反近代的で、反多元主義的な教会と関係も持ち続けたくない」
と言う、この教授の言葉には、潔さと、人としての憤りとを感じます。

今後彼の決断が、オランダのカトリック教会内部でどんな波紋を呼ぶか、興味があるところです。

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