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2010年1月15日金曜日

ヨーロッパの中のオランダ:最大多数の最大幸福に高い税は欠かせない?? (その2)

前回からの続きだ。

経済的繁栄

 冒頭に、『課税圧力は、高い福祉に不可欠なのか』『福祉は、繁栄を犠牲にするものか』『相対的に高い福祉と相対的に高い経済的繁栄とは、持続的に両立できるか』という問題を提議したこの報告書。とりわけ、グロバリゼーションで、世界中が経済競争の中に突入し、しかも、金融危機でいたい打撃を受けた後とあっては、だれにとっても一番関心があるのは、この経済的繁栄の部分かもしれない。

 結論から言うと、繁栄度は、一人当たり国民総生産についてみる限り、アングロサクソンモデルの国が最も高いが、スカンジナビア諸国もほぼそれに変わらないレベルにあり、オランダは、比較的低い大陸モデルや地中海モデルの国よりもずっと高いレベルを達成していた。
 つまり、税金の圧力が高いスカンジナビアモデルの国々は、税金圧力が低く、したがって、公共政策や幸福度などの福祉面にに明らかな遅れがみられるアングロサクソンモデルの国に比べて、決して、経済繁栄の面で劣っていない、ということだ。

 オランダに限って言えば、就業参加率(就業人口に対する就業者の率)がどのモデルよりも高い76.1%を達成していたこと、中でも、この就業者の中に占めるパートタイム就業者の率が、ずば抜けて高かったことが注目される。
 とはいえ、パートタイム就業を正規雇用化しているオランダについて、この点は、広く知られてきた事実でもある。
 失業率に至っては、これまた、オランダは、全体として最も低いグループであるスカンジナビアの4.6%(平均)に比べても、2.8%と最も低い。この値は、2008年の金融危機以前のものではあるが、それから1年後の2009年代4四半期の失業率は、前にも報告した通り3.6%(OECD基準)で、世界のどの国に比べても低かった。
 さらに、労働生産性に至っては、オランダは実に顕著な結果を示している。時間当たりの国民総生産は、スカンジナビアモデル35.0、大陸モデル35.2、地中海モデル24.5、アングロサクソンモデル35.4であるのに対し、オランダは、38.0と抜きんでている。これを年収に換算するならば、オランダ人の場合、スカンジナビア諸国の人々と比べ、年間、200時間短い時間で同じ給与を受けているという計算になるという。(アメリカよりも400時間短い)

 気になるのは、女性の就業形態だ。パートタイム就業が高率を占めるオランダでは、スカンジナビアモデルや周辺の大陸モデルの国に比べて、女性がフルタイムで働く率は低く、いわゆる『女性解放度』日本でいわれる「男女平等参画」の度合いは低い。また、管理職に占める女性の割合も、相対的に低い。
 これは、女性が、今でも、家庭の中で主導的な役割を占めていること、就学前の子育てにおいて、保育所などの施設に依存する割合が低く、そこに支出されている公共資金が低いことなどとも呼応する。
 果たして、その傾向が、良いことなのか、悪いことなのか、の判断については、次項であらためて考察してみたい。

社会的結合度

 さてそれでは、各国の社会的結合の度合いはどうか。社会的結合度は、人々の生活の豊かさの基準でもある。結合が高いということは、人々に社会に対する関心と参加意識が高く、したがって、満足度や社会の成り行きに対して影響を与えられるという気分が高い、といえるだろう。結合度の高い社会は、より多くの市民を関与させた政策決定ができるという意味で、政策に持続性や耐性が生まれ、安定度が高まる。

 社会の他の成員に対する信頼という点で、スカンジナビアモデルの平均は67.0と、大陸モデルの27.8、地中海モデルの24.6、アングロサクソンモデルの30.5に比べて非常に高かった。オランダは、45.0とスカンジナビアにははるかに及ばないものの、他の地域に比べれば好成績だ。
 同法に対する協力活動としてのフィランソロピーへの参加は、アングロサクソンモデルが最も高い(寄付72.6%、ボランティア31.9%)が、オランダは、さらにそれを上回り、世界一だ(寄付74.9%、ボランティア37.1%。

 ウェルビーング、良好な状態、とでも訳すこの言葉は、砕いていえば、幸福度・満足度と訳せると思う。欧米諸国が、物質主義社会から、非物質主義社会への移行を果たした70年代以降、ずっと行われてきている調査がある。物質主義の時代は、人々は、『生存』が生と労働の目的だった。しかし、一定程度の物質に満たされ、経済的な安定が確保された後、人々は、『より良いあり方、生き方』を求め、心の豊かさを求める価値観を持つようになった。ポスト・マテリアリズムとはこのことを言っている。ポスト・モダニズム(脱近代主義)とは異なり、もっと狭いものだ。
 オランダは、ウェルビーングの点でも、スカンジナビア諸国とともに相対的に高いレベルのグループにいつも入れられてきた。ウェルビーングの判断は、主観的なものが多く、プロテスタンティズムとの関連も指摘されている。
 さて、CPBの調査では、経済的安定性、労働に対する満足度、生活に対する満足度、幸福感、自由感のいずれにおいても、オランダは、最も高いスカンジナビア諸国に続く位置を占めた。大陸モデル、地中海モデル、アングロサクソンモデルに対しては、全体として水をあけている。(自由感についてのみ、自由市場原理のアングロサクソンモデルがオランダよりも高い位置を占めている)

 そのほか、不正(汚職)の少なさ、犯罪への不安、自殺率、などでもオランダは好成績だ。
 なぜか、10万人当たりの殺人率がスカンジナビアは大きく、拘留者の比率がオランダは高い。

 文明生活の先進性を測る一つの尺度として、国連開発計画(UNDP)が毎年公表しているHDI (Human Development Index)というものがある。経済指標のほか、教育の程度、健康生活の程度、などが考慮される。それによると、オランダは、世界で第6位、スカンジナビア諸国はノルウェーが1位であるほかは、皆オランダよりランクが低い。アングロサクソンモデルの中では、アイルランドが5位と健闘し、オランダのレベルを上回っているが、その他の国は皆、オランダよりも下位にある。


(この項続く)  
 

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