「教育先進国リポートDVD オランダ入門編」発売

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2009年1月21日水曜日

国際化時代の大学教育

 お正月が明けて以来、忙しくて寝る暇もないと言っていた息子が、やっと数日前顔を見せに来ました。建築科の修士2年生ですが、半年かかってやる設計制作の発表の日が迫っていたというわけです。計画性のない息子らしい、と夫とぶつぶつぼやいていました。
 いつも散らかっぱなしの学生アパートに共同研究チームの他の二人の学生がやってきて、2週間ほ夜も昼もない日々だったといいます。とにかく、その発表も終わり、まずまずの成績だったようで、「終わりよければすべてよし」のような気分に親の方もならされたわけではありますが、、、

 公共建造物をテーマにしたこのグループは、全員で30人ほどのグループで、およそ4割は外国からの留学生だったそうです。今回のテーマは、まず、全員で、モロッコのカサブランカに飛び、都心のスペースに博物館を建造するという想定で現地調査をすることから始まっています。一緒に旅をし、ディスカッションをし、と、なかなか連帯感のあるいいグループで、楽しかったと言っていました。

 意外に知られていませんが、オランダの大学では、工学部のように学生の規模が大きく留学生の数が多い学科は、学士課程では留学生だけを集めて、また、修士課程では、オランダの学生も一緒に授業は英語だけで行われています。まあ、中には、オランダ語なまりの教授もいると時々笑ってはいますが、そういう自分も、また、ほとんどの学生は、それなりに、母語の影響が多かれ少なかれある英語でしょう。でも、共通語として受け入れているということなのでしょう。当然、学生たちに課される課題の報告書も、プレゼンテーションなど口頭での発表も、全部英語です。どこの大学にも、オランダ語の研修のほか英語研修を受けられる施設を持っています。また、英語で論文を書く訓練もしてくれる短期コースなどもあります。

 息子のアパートに毎日毎夜とやってきて一緒に作業した二人の仲間は、オランダ人とタイ人。タイ人の学生は、国費留学生であるらしく、これまでに何箇所かの建築事務所でインターンもしたことのある優秀な学生だったようです。息子は、仲間の学生の性格が、研究の進め方にも現れていて面白がっていました。
 「オランダ人の学生たちは、どっちかというと仕事に波がある子が多い。気分が乗ってくるとどんどんやるが、乗らないとなかなか進まない、、、でも、タイ人のT君は、いつも淡々と仕事をするんだ。ものはあまりしゃべらないが、どこかでいつも同じテンポで安定して仕事をしている、、、」と。
「でもね、ほかのグループでは、オランダ人二人と中国人が組んでいて、中国人はあまりしゃべらないからだんだんに無視されていった感じだったよ。最後の発表でも一緒には並んでいたけどあまりしゃべらなかったな。しゃべらないからって考えていないわけじゃあないんだし、アジアの学生には、時々、発言のチャンスを仕向けてやらなくちゃいけないんだけどね、そうすれば、いいアイデアとか意見とか持っているんだよ。T君だって、ちょっとこちらから働きかけると、話をするし、アイデアを提供してくれるし、、、オランダ人にはそういうことがわからないんだな」
 どうやら、日本人の母親を持って育った息子は、アジア人というのが、黙っているからと言ってモノを考えていないわけではない、ということは分かってくれていたようです、、、、

 そういう息子に、
「でもね、留学するっていうのは、そういうことをまさに学ぶっていうことじゃあないのかな。中国人だって、タイ人だって、やっぱり、この国の人たちの中では、こういう風にやるのが共同の仕事なんだ、というのを学ぶ、そして、やっぱり、黙ってばかりいないで自分の方から口を切っていく努力も必要だと思うわよ」
なんて、物知り顔のことを言ってみたりしたのでした。

 30人のグループの中には、イタリア、ルーマニア、台湾、スウェーデン、ポーランドなどなど、いろいろな国からの学生がいます。何かの折に集まれば、イタリア人の学生がスパゲッティを御馳走してくれたり、、、そうそう、このイタリア人の学生は、アメリカ製のセサミストリートに出てくるキャラクターに似ていてあだ名が付いているのだとか、、、言葉の違ういろんな国の子たちとはいえ、子供時代に見た番組が同じだったというのも面白いです。子どもの時からアメリカ文化にまみれて育った、そういう時代の子供たちなのだな、と思います。

―――

 医学部3年生の娘の方も、国際化時代を生きている、という感じがします。
 2年生の時には、彼女の大学が交換制度を作っているスウェーデンとドイツの大学の学生が10人余り半年間授業を一緒に受けました。それぞれの大学と、単位互換制度を作っていて、一定期間、同じ内容の授業を、相手方の大学で受けられるような仕組みを作っているのです。この機関は、これらわずかの留学生のために、授業もゼミも実習も試験もみな英語で行われるのだそうです。これなどまさに、国際化の意味を考えさせるものです。授業そのものが目的というよりも、国際交流の体験を学生のうちにしておくことの意味があるのでしょう。

 なんでも、本年度から、スウェーデンの大学との互換制度は中止になったのだとか、、、理由は、単位互換するのに授業の程度が違いすぎるということだったのだそうで。「ほんとうに、うちの大学、古いから有名だとふんぞり返っているのよ、偉そうなことばかり言って、、、目を覚ませって言ってやらなくちゃ」とかなんとか、学生らしい不服を言っているのは娘たちです。
 互換制度は、お互いの大学の質をフィードバックする役にも立っているということでしょう。

 オランダには、医学部のある大学が、8か所くらいありますが、それぞれ、別のカリキュラムを作り、特徴を出して競い合っています。1年生から病院実習をやる大学もあれば、娘が言っている大学のように、4年生になってはじめて病院実習をやる大学もあります。理論と実践を同時進行でやるか、理論を確実に積んだ上で実践に入るか、という考え方の違いであろう、と思います。
 いずれにしても、この病院実習の期間になると、学生たちは、国内の病院だけではなく、外国の病院にも積極的に出かけていきます。かつてオランダの植民地だった南アメリカのスリナムやアフリカの国々は、外国に関心のある学生に人気のようです。もちろん、ヨーロッパ国内の病院に掛け合って、実習をやらせてもらえるように交渉してくる学生もいます。
 当然、交渉は大学の学生課や国際交流課に相談するなり、学生が自分でやらなくてはいけません。

 ヨーロッパ国内の大学を通じて実習をすれば、単位も認められるし、エラスムス奨学金という、ヨーロッパ域内の留学振興のために設けられた奨学金を受けることもできます。この奨学金制度は、ヨーロッパの学生たちによく利用されているもので、半年-1年程度の短期留学に使える便利なものです。自分の専門として入る学科で、特徴のある研究をしている大学に短期に留学してみる、というのに便利ですし、学科ごとに、この奨学金が使えるいろいろな大学間交流プログラムを作っているようです。オランダの場合、自国の大学に行く時にもらえる奨学金は、そのまま、欧州連合内の国の大学でも使えるので、隣国への留学が大変しやすい仕組みになっています。
 
 そのほかに、専門学科ごとに、学生たちが運営している国際交流振興会のようなものもあり、外国の大学の学科と提携して、研修や留学を希望している学生たちの便宜を図っています。

 そういうわけで、娘は、今年の夏、友人と二人で、医学部の国際交流振興会の事業としてやっているマラウィの病院研修に出かけることになっています。エイズやマラリア、その他の熱帯病が多いマラウィの病院で、他国たらの学生に交じって、医療チームの手伝いをしながら、病院実習を6週間やるのだそうです。今年の9月に始まる来年度、理論の履修が終わり1年半の病院実習が始まると、パリの大学病院に行きたいと、今、方々から情報を集めながら画策中です。医療単語を全部フランス語で覚え直さなければならない、とぶつぶつ言っていますが、パリ好きの彼女は、そっちの方が目的で何とかしたいと思っているみたいです。うまくいけばいいが、と思っています。

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